【お前など眼中にない】一目惚れしてスルーされた話

居酒屋でバイトをしていた１９歳の時、初めて自分から女性に声をかけた。要はナンパだ。その時の話。

私が勤めていた居酒屋チェーンMの別の店舗で「バイトが足りないので１人ヘルプが欲しい」という話が、私のところに入ってきた。

人手不足で他の店にヘルプをしに行くのは、大手のチェーン店ではよくある話。私はその日、ちょうど予定が何も入っていなかったので快く承諾した。

その店は、当時良く遊んでいた中学の同級生がバイトをしていたので、むしろ行くのが楽しみであった。それに、何度かヘルプで行ったこともあり、他の店員とも顔は知れていて働きやすい環境だった。

ヘルプの当日は土曜日で忙しい時。私を含めてキッチンは３人、ホールは２人、オールラウンドでできる店長が１人、計６人で回すことになっている。

私は「おはざいまーす」と軽く挨拶して、今日はよろしくーみたいな感じでキッチンに入った。久しぶりに顔を合わせるメンツに、懐かしい気持ちが蘇った。その中に初めて見るホールの女性の１人がいた。

その女性を見た瞬間、心拍数が上がった。

美しい。美しすぎる。

この時もうすでに虜になっていた。

その人の名前はTさんと言い、私より１つ上の大学生だった。立ち居振る舞いがきっちりしていて、一つ一つの動作に艶やかな色気があった。生唾をごっくんするほど、魅力溢れる素敵な女性だった。今まで、これほど私の心を揺れ動かす女性を見たことが無かく、完全に落ちてしまった。

仕事中、友達と会話はするものの、Tさんが頭から離れなくなりずっとそわそわしていた。料理を運ぶのをお願いする時、Tさんが「はーい」と言って受け取りに来るとたまに目が合う。そのたびに、Tさんの瞳に釘付けになった。手が空けばTさんの方を見て、その姿を見るたびに胸がときめいた。今日のバイトが一生終わらなくてもいいと思えるくらい、素敵な時間に思えた。

そして夜１１時、私の退勤時間になり後始末をして帰ろうとした。Tさんも私と退勤時間が同じだった。

だが、もうTさんに会えなくなると思うと急に切なくなってきた。

いつまでTさんがこの店にいるかもわからない、もう２度と会えないかもしれない。そう思うといてもたってもいられなくなった。そして、私は堪え切れず、

「あとでメールアドレス教えてください」

とTさんに伝えた。ナンパだ。

この時、自分の過去とか恥ずかしい感情とかそういうものは一切無く、本心から出た言葉だった。それくらいTさんにぞっこんだった。

するとTさんは「じゃあ着替えが終わったらね」と、さらっと返してくれた。

その言葉を聞いた私は一気にテンションがあがった。

やった。やってやった。Tさんのアドレスが聞ける。これからも連絡が取れる。嬉しすぎてその場で全力で踊りたいくらい感動した。とにかく、Tさんとお近づきになれるのが嬉しすぎた。

私は先に着替え終わり、人の邪魔にならない店内の隅で待つと伝えた。Tさんは退勤の挨拶をし、店の入り口の横にある更衣室に向かっていった。

私はうきうきしながら待った。１０分くらい経っても（女性だから色々と支度に時間がかかってるのかな＾＾？）と、能天気に待ち続けた。

だが、２０分、３０分経ってもTさんは来なかった。さすがに遅いと思って、もう１人のホールスタッフの女性Yさんに「Tさんが全然来ないっす」と訴えた。

Yさんは私のさっきの行動を知っていて「ああ、帰ったと思うよ」と軽い感じで言っい、「Tさん、CAの卵でさ、凄い綺麗だよね。よくお客さんからも声かけられてるし、こういうの慣れてるんじゃない？あと、彼氏いるっぽいよ」とあっさりと回答してくれた。

それを聞いた私は妙に落ち着き、全てを悟った。

「ああ、相手にされてなかったのね」

この時なぜか、悔しいといった感情などは全く湧かなかった。私はこの事実を潔く受け入れ、何事も無かったかのように家に帰った。

その後の話ではTさんはすぐに店を辞めてあとはわからないとか。きっと、世界と男を股にかけて楽しく過ごしているのだろう。

こうして私の初めてのナンパは失敗に終わった。他の人からしたら当たり前のこと過ぎて失敗でもなんでも無いと思うだろうが、私の性格を考えたらあり得ない行動だった。今でも自分がこの行動を取ったことが信じられない。そして、この時から１度もナンパはしていない。

けど、この経験は今とはなっても自分のネタにもなって数少ない良い失敗になったと思っている。女性に振られる気持ちがわかっただけでも良い経験だ。

ちなみに一目惚れは、相手の性的な魅力を受けて肉体的に欲しているからなるらしい。簡単に言うと「性欲」「抱きたい」ということ。あの時、私の全神経が股間に集中していて、おそらく股間が喋っていたんだと思う。でないと私の性格からしてナンパをするのに説明がつかない。自分の制御が利かなくなるほど、性欲の凄まじさを垣間見た。それと同時に、過ちを犯す人の気持ちも少しわかったような気がする。

ただ、今後もそんな女性に出会ってみたいし、お近づきになりたいな～と頭の中で妄想している。

明日もハレルヤ